来 歴


飛べ


アカシアの梢から
私とそっくり同じ声をして
飛ばぬ私をせきたてている山鳩
快楽で重たいわけではないのに
なぜ私の誇らかなことばは
あのアカシアの木の高さまでも
飛び上がることができないのか

舌にざらつく
苦いことばの滓は
人知れず呑みこんでしまうだけ
狭くて暗いのどを通過すると
からだの深いところを
最後の森が占めている
どのことばもそこで
あとかたもなく消えている

夕日を目がけて羽ばたき
明るさを飛び越してしまった山鳩
その優しい緑のやみの中で
眠りこけている耳に向かって
私のすりへった魂を
静かに揺さぶり起こすもの
何も見えない世界を
どんなことばが選びとるのだろう
私の胸の痛みに向けて
ひたすらに飛び続ける山鳩
いちばんいたましい声で
もう一度飛べと命じるもの


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